TL;DR

  • ヘルメス文書は錬金術・秘匿性・宇宙論を形作り、その語彙はいまも生きている。
  • **「quintessence / quintessential」**は錬金術師のいう quinta essentia、第五の天上的元素に由来する。
  • **「Hermetically sealed(気密封鎖)」**は、ヘルメス・トリスメギストスに祝福された、空気を通さない錬金術の器を想起させる。
  • **「As above, so below(上なるがごとく、下もまた然り)」**のようなポップオカルトの標語は、エメラルド・タブレットにさかのぼる。
  • 黄金の夜明け団とタロット・ブームは、ヘルメス的象徴を大衆的なアートや自己啓発へと再利用した。
  • 「Hermit(隠者)」はヘルメス的(Hermetic)ではない。 これはギリシア語 erēmitēs(「砂漠の」)に由来し、民間語源の一例である。

1. 五元素と一語:Quintessence#

中世の錬金術師たちは、地・空気・火・水よりも純粋で、天界を満たしていると考えられた**「第五の本質」**を探し求めた。ラテン語 quinta essentia はフランス語 quintessence となり、さらに英語の “quintessential” へと変化し、「あるものの最も純粋で最良の典型」という意味になった。忘れ去られた宇宙論が、いまや「the quintessential taco stand(究極のタコス屋)」をうたうクリックベイト見出しの原動力になっている。[^1]


2. 秘密のように封じる:Hermetically Sealed#

ヘルメス・トリスメギストスは、秘密をガラスの中に封じ、入門していない者の目も空気も入り込めないようにしたと噂された。ルネサンス期の化学者たちはその技法を借用し、ヴィクトリア朝の人々はその言い回しを借用した。1894年までには、「hermetically sealed」な瓶が缶詰の桃から微生物を締め出すようになり、「hermetic」はさらに意味を広げて、不透明で難解、あるいは忍者級にプライベートであることを指すようになった。1


3. 「As Above, So Below」とミーム化しやすい箴言たち#

エメラルド・タブレット の一節 quod est superius est sicut quod inferius は、包括的なマントラ “As above, so below.” へと姿を変えた。ブラヴァツキーからTikTok占星術師に至るまでのオカルティストたちは、宇宙と精神を結びつけるためにこの句を振りかざす――現実は**フラクタルで共感的(シンパシーに満ちている)**という、二千年もの歴史をもつアイデアに対する、じつに洗練されたマーケティングである。2


4. タロット、黄金の夜明け団、そしてオカルト・リバイバル#

19世紀末の**黄金の夜明け団(Hermetic Order of the Golden Dawn)**は、カバラ、占星術、ヘルメス的伝承をタロットに接ぎ木した。そのメンバー(W.B.イェイツ、アレイスター・クロウリー)はポップカルチャーに種をまき、現代のタロット・デッキやファンタジー小説、さらにはハリウッドのフード付き魔術師の美学に至るまで、この短命なロンドンの結社に負うところがある。3


5. まぎらわしい似た者同士:なぜ Hermit は Hermetic ではないのか#

見た目は似ているが、関係はない。 Hermit はギリシア語 erēmitēs(「砂漠の住人」)に由来し、ラテン語 eremita、古フランス語 hermite、中英語 heremite を経てきた。h が再び入り込んだのは、ヘルメスのせいではなく、偶然の音声変化によるものだ。それでも混同は生き残っている――民間語源が、きれいにまとまった神話を好むことの証拠である。4


FAQ#

Q1. 科学者が「quintessence」を真面目に使ったことはあるのですか?
A. ある。宇宙論学者たちは1990年代後半、宇宙の加速膨張を駆動しているとされる仮説上のダークエネルギー場に対してこの語を復活させた。中世錬金術への、皮肉なまでに物理学教室的な敬礼である(もっとも、いまだ未証明だが)。

Q2. 「As above, so below」は本当に エメラルド・タブレット に書かれているのですか?
A. ある意味では。ラテン語ヴルガタ版にはそう書かれているが、最古のアラビア語版にはない。よりキャッチーなこの英語スローガンは、19世紀のパラフレーズであり、オカルト界隈でバイラルになったものだ。


脚注#


参考文献#

  1. Copenhaver, Brian. Hermetica: The Greek Corpus Hermeticum and the Latin Asclepius. Cambridge UP, 1992.
  2. Kahn, Didier. La Table d’Émeraude et sa tradition alchimique. Les Belles Lettres, 1994.
  3. Godwin, Joscelyn. The Golden Dawn Companion. Aquarian, 1991.
  4. Merriam-Webster. “Distilling the Essence of ‘Quintessence’.”
  5. Styler, Will. “The Alchemical Origin of ‘Hermetically Sealed’.” 2021.
  6. “As Above, So Below.” Wikipedia, last modified 2025-07.
  7. “Hermetic Order of the Golden Dawn.” Wikipedia, last modified 2025-07.
  8. The Digital Ambler. “No, the words ‘hermit’ and ‘Hermeticism’ aren’t related,” 2024.

  1. W. Styler, “The Alchemical Origin of ‘Hermetically Sealed.’” ↩︎

  2. “As Above, So Below,” Wikipedia (accessed 2025‑08‑02). ↩︎

  3. “Hermetic Order of the Golden Dawn,” Wikipedia↩︎

  4. The Digital Ambler, “No, the words ‘hermit’ and ‘Hermeticism’ aren’t related.” ↩︎